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訪問介護・訪問看護のハラスメントに、事業所はどう向き合うのか〜前編 一人で訪問する不安〜

2026.03.27 Fri


訪問介護・訪問看護のハラスメントは、避けて通れない

「訪問介護や訪問看護には、やりがいがあります。
地域で暮らす人を支える仕事でもあります。

ただ、その一方で、不安もあります。
個人宅に一人で入ること。
利用者や家族との関わり。
ハラスメントへの不安。

この問題は、避けて通れません。
訪問の仕事を考えるうえで、不安のひとつだからです。




「一人で行くのが不安」は、自然な感覚です

病院やリハビリ施設、介護施設で働いている人が、「訪問もありかな」と考えた時によく聞くのが、「一人で行くのが不安」という声です。
不安は、業務内容や急変対応だけではありません。

男性利用者への不安。
家族がいる家に一人で入ることへの不安。
若い看護師、介護士、セラピストにとっては、現実的な不安としてあると思います。

だから、このあたりのリアルは、きちんと伝える必要があります。
訪問の仕事を勧めるなら、なおさらです。



実際に、事件は起きています

訪問の現場では、実際に事件が起きています。
訪問看護師が利用者宅で飲み物を出され、それを飲んだことで被害に遭った事件も報道されています。

引用:「薬入りスープで訪問看護師の女性眠らせ、胸触る 79歳男逮捕」神戸新聞NEXT
https://www.kobe-np.co.jp/news/backnumber2/201912/0013015215.shtml

引用:「睡眠薬混ぜたスープ飲ませ、看護師の体触る…介護・看護の現場ではびこるセクハラ」読売新聞オンライン
https://www.kobe-np.co.jp/news/backnumber2/201912/0013015215.shtml

引用:「訪問介護で訪れた女性に「睡眠薬」入りお茶?飲ませ、急性薬物中毒に…男を逮捕」読売新聞オンライン
https://www.yomiuri.co.jp/national/20211013-OYT1T50085/

東灘区、芦屋のすぐ隣でも同じようなことがありました。
業界としても衝撃が大きかったです。

私がこの業界に入った20年ほど前には、こうした話はあまり聞きませんでした。
けれど、高齢者が増え、在宅で支える人も増え、全体のボリュームが大きくなる中で、以前はあまり表に出なかったことも起きるようになってきたのだと思います。

ただ、問題は刑事事件になるようなケースだけではありません。
その手前にある暴言、暴力、セクハラ、長時間のクレーム。
そうしたものも、訪問の現場にはあります。



訪問の現場にある、事件になる前の問題

訪問の現場で起きる問題は、すべてが明確な「事件」として整理できるわけではありません。
どこから問題にするのか。
そこにはグラデーションがあります。

暴言。
暴力。
セクハラ。
長時間に及ぶクレーム。
人格を傷つけるような言葉。

そうしたことが、刑事事件ではないから軽いという話にはなりません。
現場で働く人にとっては、十分に重い問題です。

しかも訪問では、その場に一人でいることが多い。
すぐ横に同僚がいるわけではありません。
その状況で受ける言動は、施設や病院とはまた違う重さがあります。

「それぐらいうまいことしなさい」介護・看護の現場に残る古い感覚

20年ほど前、この業界の一部では、女性スタッフが男性患者や利用者からセクハラを受けた時に、「それぐらいうまいことしなさい」といった指導が通っていた時代がありました。
今では考えにくいことですが、そういう文化的背景があったのも事実だと思います。

令和になって、ハラスメントに対する社会の感覚は変わりました。
#Me too運動など市民感覚も向上してきました。

それでも、介護・看護の現場はやや取り残されている面がある。私はそう感じています。
電車の中で起きたら逮捕者だらけになるようなことが、介護現場では起きてきた。介護現場は、今でもハラスメントが多い分野だと思います。



般社会と同じ線引きでは見られない難しさ

介護・看護の現場が一般社会と大きく違うのは、相手が高齢者であることです。
しかも、介護を必要とする高齢者の多くは、認知症や精神状態の変化など、社会通念をそのまま当てはめられない事情を持っています。
ここは、公共交通機関や一般企業のクレーム対応とは圧倒的に違うところです。

だから難しいのです。

たとえば、重度の認知症の方が入浴介助を嫌がって怒る。
物を振り回す。
強く抵抗する。

こうしたことは、現場では起こり得ます。
業界の人からすれば珍しいことではありません。
けれど、その場にいる職員が「怖い」と感じたなら、そこで向き合わざるを得ません。

「怖い」と感じている職員に
「認知症なんだから仕方ない」で終わらせるのも違う。
「それぐらい何とかしなさい」と言うのも乱暴です。
ここに、介護・看護の現場の難しさがあります。



「どこから問題にするか?」が難しい

在宅の現場では、どこから問題にするのか、判断が難しいことがあります。

認知症かどうかは分からない。
でも、訪問介護ヘルパーに差別的なことを言う。
「こんな掃除の仕方は何だ」
「育った家庭が悪い」
「謝れ」
長時間に及ぶクレームになる。

こうなると、職員を現場で守らなければならないという大原則と、利用者の状態をどう見るか、その両方を考えなければいけません。
これが、介護・看護、とくに在宅の現場の難しさです。

しかも相手は高齢者本人だけではありません。
サービス利用者の娘さん、息子さん、配偶者など、家族が相手になる場合もあります。
利用者本人に問題がある場合もあれば、家族対応の中でしんどさが強くなる場合もあります。



行政は対策に動いている。事業所はどうか?

兵庫県も、ハラスメント啓発のチラシを出しています。


同行訪問の補助のような仕組みもあり、国や都道府県は比較的、毅然と対応しようという意思を持っていると感じています。
十分かどうかは別として、やろうとしていることは伝わってきます。

ただ、現場で働く人にとって大きいのは、その先です。
事業所がどこまで職員を守るか。
ここは、本当に事業所による差が大きいと思います。

「それぐらい頑張ろうね」で終わる事業所もある。
そもそも「嫌だった」と言うツールすらない。
言う機会がない。
言う相手がいない。
そういう現場の声を、私はこれまで何度も聞いてきました。

訪問の仕事に不安があっても、応募を考えている事業所がどれくらい本気で守ってくれるかは、外からは分かりにくい。
そこが大きな問題だと思います。

いちばん厄介なのは、起きても上がってこないこと

この問題でいちばん厄介なのは、起きても上がってこないことです。
ハラスメントの相談は、しづらいものです。

訪問の仕事は、一人で利用者宅に行き、次の訪問へ向かう働き方だからです。
事務所で隣の同僚に「ああ、そういえばさ…」と気軽に話せる機会が少ない。
連絡も相談も、自分から重い腰を上げないとできません。

しかも、「これぐらいのことで言っていいのか」と迷うこともあります。
「自分が気にしすぎなのかもしれない…」
「認知症の影響かもしれない…」
「忙しいのに、こんなことを言っていいのか…」

そうやって、個人の中にしまい込んでしまうことがあります。
「特に何もない」と答えていたのに、実際には問題があったと発覚したこともあります。

だからこそ、聞ける体制をつくることが欠かせません。

まず必要なのは、聞く機会

当社の話で言えば、まず重視しているのは、聞く機会を確保することです。
職員がハラスメントを受けていないか。
嫌な思いをしていないか。
そこを把握できなければ、何も始まりません。

訪問介護・訪問看護のハラスメントは、「それぐらい」と片づけていい問題ではありません。

まず大前提として、職員を現場で守らなければならない。

私はそう考えています。

後編へ続く>>

株式会社ロジケア
代表取締役 社長 佐野 武
Takeshi SANO


後編では、ロジケアがこの問題にどう向き合っているのか。
・相談経路のつくり方。
・職員への聞き方。
・事案が上がったあとに、どう判断していくのか。
その具体策をお伝えします。