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訪問介護・訪問看護のハラスメントに、事業所はどう向き合うのか〜後編 職員をどう守るのか〜

2026.04.27 Mon

訪問介護・訪問看護のハラスメントは、「それぐらい」と片づけていい問題ではありません。
まず大前提として、職員を現場で守らなければならない。
私はそう考えています。

では、実際にどう守るのか。
後編では、そのことを書きます。


まず必要なのは、相談経路を確保すること

当社でまず重視しているのは、「経路」を確保することです。
職員から見たら、通報というか、相談経路です。
それをしっかり使ってもらう。
事業所もしっかり聞く。
ここは、まず絶対ラインというか、死守ラインだと思っています。

ただ、「何かあったら言ってくださいね」では足りません。
ハラスメント被害は、基本的に言いづらいものだからです。
「こんなことをされて嫌だった」と言うこと自体が、もう言いづらい。
それを、職員側の能動的なアクションに委ねるだけでは、どうしても止まってしまいます。

しかも本人の中で、それが「何かあった」に当たるのかどうかすら分からないことがあります。
普段の忙しい訪問の中で、いちいち電話してまで言うことなのか、時間を割いて伝えることなのか、と個人の中に押し留めてしまう。
日々の訪問の中で徐々にしんどくなっていった時に、どんどん言うタイミングを失っていくこともあります。
会社としては、もっと早めに聞きたい。
だから、「何かあったらいつでも言っていいからね」だけでは、ちょっと難しいと思っています。


毎月、こちらから聞きにいく

当社では、毎月プッシュで聞いています。
スマホのアプリで、「アンケートに答えてね」と送る。
答えなかったら追いかけます。
「答えてください」と言って、そこまで追いかけて、「本当に何もないの? 大丈夫なの?」と聞きにいく。
まず僕たちが取り組んでいるのは、そこです。

面接でこの話をすると、びっくりされることもあります。
他の事業所では、そこまでやれていないところもあるのかもしれません。
当社は、割と強めに聞いている方かもしれません。
でも、そこまで聞いて初めて出てくる問題がある。
私は、ほとんどがそうだと思っています。

「何かあったら教えてね」ではなく、アンケートでようやく口を開く。
そういうことがあります。
もともと、発信すること自体が苦手な人もいます。
内容ではなく、人が。
自分から「はい」と手を挙げるのが苦手な人は、少なからずいると思います。
だから、「そんなわけないよね」と言って、こちらから聞く。
そこが、僕らの死守しないといけないラインなのかなと思っています。

この聞き取りでは、職員側の被害だけを見ているわけではありません。
「利用者さんが権利侵害を受けている可能性はありますか」ということも、同じように職員に聞いています。
家族からの虐待。
デイサービスやショートステイなど、他の支援の中で起きている権利侵害。
ずっと服が汚れている。
お金を使わせてもらえていないことで、生活がままならない。
直ちに虐待とまではいかなくても、気づかなければいけないことがあります。

だから、プッシュ型で聞くということは、職員を守る方向でもあり、利用者を守る方向でもあります。
私は、その両方を聞くことが大事だと思っています。



上がった事例は、専門職複数名で検討

対応そのものは、専門職が集まって検討すれば、そんなに大きく外さない気もしています。
事例さえ上がれば。
共有できる事例さえ上がれば、「これはおかしいよね」「これはこうしたら何とかいけるかな」「これは無理よね」ということは、専門職として見えてくると思っています。

介護福祉士。
看護師。
ケアマネ。
職種が違っても、「叩かれているのに、それを我慢しろとはならない」という感覚は、そう大きく外れないと思うんです。
だから、机上に上がってさえしまえば、そんなに間違わない。
問題は、上がらないことです。

では、実際に事案が上がってきたら、どうするのか。
そこでも大事なのは、いきなり極端なジャッジをしないことです。
流れとしては、まずキャッチします。
その次に、情報収集です。
病気はどういう病気か。
一人暮らしか。
何歳くらいか。
他のヘルパーさんや看護師さんにも同じことがあるのか。
この人だけなのか。
他の利用者ではどうなのか。
そういう情報を集めて、問題を切り分けていきます。

情報収集、分析の次は、事実確認です。
利用者さんに聞く場合もあります。
「当社の職員からこのようなことを聞きました。こういうことがあったのは事実でしょうか」
そういうふうに、ズバッと聞く場合もあります。
もちろん、食い違うことはあります。
「言ってない」「やってない」と食い違うこともあります。
それでも、検討して、アクションしていく。
そういう流れになります。

基本的に判断は、一人で決めないほうがいいと思っています。
対応の線引きを、完璧に綺麗な一本にすることは無理です。
やりすぎたかもしれないラインもある。
逆に、及び腰すぎるラインもある。
だから、その幅をどう確保するかが大事になります。
何人かで決める。
職種を分けて意見を聞く。
看護師はどう思うか。
介護職はどう思うか。
そういう形のほうがいい。
私はそう思っています。


職員を守るために、必要な対応を

事例が上がった後の着地点は、一つではありません。


「このまま継続しましょう」という場合もあります。

利用者さんに改善を求める場合もあります。

こちら側で改善する場合もあります。

「二人で行かせてください」
「ヘルパーを替えさせてください」
そういう対応もあります。
もっと言うと、「サービス提供中止します」という場合もあります。

それは本当に、さまざまな要因が複合的に絡むので、一概には言えません。
ただ、結果として、サービス提供を中止せざるを得ないことはあります。
介護保険サービスには、「サービス提供拒否の禁止」があります。

公費を預かって提供しているサービスなので、利用者を選ぶことはできません。

「こういう利用者は断ります」とは、基本的には言えません。


ただ、例外規定はあります。

人員が足りない。
適切なサービスが提供できない。

そういった事情に当たる場合、その限りではない。
その中で、ハラスメントを改善できない場合も、僕たちとしては該当すると認識しています。
だから、サービス中断、提供中止をやらざるを得ないことも考えます。

しかもこれは、自分たちだけの問題ではありません。
サービス利用者にとっても、この先ずっと介護保険を使っていくなら、一生の話になる問題です。
そこで改善しないまま、事業所から「無理です」と言われ続けたら、利用者側も大変です。
だからこそ、改善してもらうしかないということを、強めに伝える時もあります。
そして、最終的に提供中止になった場面では、「次の事業所にもそんなことをしないでくださいね」と伝えています。

もう一つ大事なのは、利用者との関係が特殊にならないようにすることです。
あくまでも援助関係に徹する。
そこも、対策の一つだと思っています。
在宅に初めて来た人の中には、利用者さんとどう関係を築いたらいいか分からず、自分の個人情報を話して信頼関係をつくろうとする人もいます。
「僕、子どもがいてね」
「最近結婚してね」
そういう形で距離を詰めようとする。
でも、それは絶対やったらまずい方法だと思っています。
実際、ハラスメントの背景に、不適切な援助関係が原因になっている場合もあります。
だから、そこも同時に防いでいく必要があります。

「職員を守る」と伝え続けること

私は、最初から「職員を守ろうとするよ」ということを、伝え続けることが大事だと思っています。
「何もないか、本当に大丈夫か」と、毎月聞いてくれる上司がいる。
場合によったらサービスを打ち切るよ、とまで言ってくれる。
結果として切らなくても、場合によっては顧客を切るからね、というところまで含めて守っていく。
そういう姿勢が必要だと思っています。
僕らの業界は、人がいっぱいいる業界ではありません。
一人ひとり守らないといけない。
私は、そういう感覚を持っています。

株式会社ロジケア
代表取締役 社長 佐野 武
Takeshi SANO