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サ高住・ホスピスの急増がもたらす在宅介護の危機―家ではない“家”―後編 

2025.11.12 Wed


分けることで見えてくる解決の糸口



サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)やホスピス型住宅が「家ではないのに在宅として扱われている」という現状。
この構造的な歪みが、訪問介護業界の根幹を揺さぶっています。
では、なぜ問題と分かっていながら是正されないのか。その背景には、制度の成り立ちと行政の縦割りという“見えない壁”が存在していると感じます。



省庁の縦割りが“原因”であり、改善を遅らせている
のではないか

「連帯保証人がいないと借りられない」「高齢者は入居を断られる」――
住まいを借りる際、“高齢者だから”という理由で門前払いを受ける現実があります。
この社会的課題に応えるために制定されたのが、国土交通省が所管する「高齢者の居住の安定確保に関する法律」、いわゆる高齢者住まい法です。

この法律によって位置づけられたのが「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」という制度でした。
もともとは「高齢者が安心して住まいを確保できるようにする」ことを目的とした住宅政策の一環で、医療や介護とは別の文脈からスタートしています。
高齢者の住居難を解消しようという趣旨であり、決して悪法ではありません。

しかしその仕組みに、介護保険や医療保険を適用させるというビジネスモデルが生まれました。
制度上は“住宅”でありながら、実際には“介護施設”のように機能している場所を「家」と見なしてしまったことに、そもそもの無理があったのではないでしょうか。

介護保険事業者の目線で見れば、サ高住やホスピス型住宅はどう考えても「施設」です。
それをあくまで「家」として扱うことで、在宅サービスの枠組みを使い、結果的に過剰請求が生まれる土壌をつくってしまった。
国交省の住宅政策と厚労省の社会保障政策とのすり合わせが足りていない――
これが典型的な“縦割り行政の弊害”だと私は考えています。

「連帯保証人がいないと借りられない」「高齢者は入居を断られる」イメージイラスト



「減算」では構造は変わらない

こうした動きを抑制するために、厚生労働省はこれまでにも何度も制度改正を行ってきました。
代表的なのが「特定事業所集中減算」や「同一建物減算」です。

特定事業所集中減算は、ケアマネジャーが同じ事業所のサービスばかりを使っている場合に報酬を減らす仕組みです。同一建物減算は、同じ敷地・建物内で訪問介護を行った場合に報酬単価を10~12%引き下げるものです。

しかし、こうした減算措置は実際にはほとんど抑止力になっていません。
サ高住の事業構造は、移動コストがほとんどかからず、同一建物内で多くの利用者にサービスを提供できるため、収益率が非常に高い。そのため10%程度の減算では痛手にならないのです。

現行制度では、サ高住やホスピス型住宅も「訪問介護」と同じ区分で扱われ、統計上も経営実態上も、地域型との区別ができません。このままでは、どれだけ制度を細かくいじっても本質的な改善には至らないでしょう。


解決のカギは「制度を分けること」

私は、解決策は非常にシンプルだと思っています。
「地域型の訪問介護」と「集合住宅型の訪問介護」を制度上きちんと分けることです。
この二つは、運営コストも、提供のあり方も、想定する利用者像もまったく異なります。

あるいはもう一歩踏み込み、集合住宅型の介護を“施設的サービス”として包括報酬にしてしまう。
月額固定にすれば、訪問回数を増やしても報酬は増えません。
それだけで過剰請求のインセンティブは一瞬で消えます。

このどちらかを選ぶだけで、現状の問題の大半は解決できると私は考えています。
制度設計の視点を変えるだけで、在宅介護の理念を守ることは可能なのです。


民間が行政より先に動いてしまう現実

「夜も泊めてもらえませんか?」

――そんな家族の切実な要望に応える形で、10数年前、デイサービスが「お泊まりデイ」と呼ばれる介護保険適用外の宿泊サービスを始めました。

当初のお泊まりデイには課題も多くありました。男女同室での雑魚寝、消防設備や夜間体制の不備など、安全面に問題を抱える事業所が少なくなかったのです。

日中利用が原則のデイサービスで、利用者を夜間も宿泊させる「お泊まりデイ」が急速に広がった背景には、短期宿泊介護(ショートステイ)の逼迫がありました。施設は満床が続き、予約も2~3カ月待ち。急な体調変化や家族の事情に対応できない状況が常態化していたのです。

行政の制度が整っていない中、民間が先に動き、その後に問題が表面化し、行政がルールを整える――。
この“先走り”は、日本の福祉制度の発展とともに何度も繰り返されてきた構図です。

現在では、「お泊まりデイ」は2015年度の介護報酬改定で「宿泊サービス」として正式に位置づけられました。居室基準や夜間職員の配置、避難経路の確保などが厚生労働省の通知で明確化され、今では一定の安全基準のもとで運営されています。

サ高住やホスピスの問題も、構造としてはこれとよく似ています。制度のすき間に民間が入り込み、需要に応える形で急拡大した。だからこそ、行政が現場の声を拾い、同じように「実態に合わせた制度改良」を進めれば、混乱を抑えながら健全な形に整えることは十分に可能だと考えています。


地域の在宅ケアが細る構造

サ高住やホスピス型住宅の拡大は、地域の訪問介護現場に直接的な影響を与えています。サ高住は収益性が高く、給与水準も比較的良いため、介護職員がそちらへ流れていく。結果として、地域で在宅介護を支える事業所や、特養・老健・小規模多機能といった一般的な介護施設は慢性的な人手不足に陥っています。

同一建物内での高回転提供は採算性が高く、給与水準に反映されやすい一方、地域型の訪問介護は移動や個別対応に時間と手間がかかり、人件費の確保が難しい。この構造の違いが、人材の流出をさらに加速させています。

地域で必要なケアが届かなくなり、“在宅で暮らしたくても介助の担い手がいない”という状況が各地で起きています。
本来、十分に自宅で暮らせるはずだった人たちが、ヘルパー不足のためにやむを得ず施設への入居を選ばざるを得ない。本人が望んだ「家での生活」が、制度や人手の都合で閉ざされてしまっているのです。

※画像はイメージです。



「これでいいわけがない」――ケアマネジャーの葛藤

ケアマネジャーこそが、在宅介護の中核を担う専門職です。
利用者の希望を聞き取り、「家で暮らし続ける」ためのケアプランを立てる――その支援の中心にいる存在であるはずです。

しかしサ高住では、最初から住む場所が決まっており、その建物内で完結することを前提にプランが組まれてしまう。本来「家で暮らすための支援」であるはずのケアプランを、“家ではない場所”を「家」として前提化せざるを得ない――。その矛盾を抱えながら業務にあたるケアマネジャーも少なくありません。

さらに、会社の方針に沿って、必要もないのに満額請求ができるプランを強引に作成させられるような業務に従事せざるを得ないケースもあります。本来の支援とは異なる目的でプランを組まざるを得ない――その葛藤を抱えながら働いているケアマネジャーも少なくありません。私も同じケアマネ出身者として、その苦しさは容易に想像がつきます。

「家」とは何か。
どこまでが「在宅」と呼べるのか。
この問いを、もう一度社会全体で考えるときが来ているのだと思います。

株式会社ロジケア
代表取締役 社長 佐野 武
Takeshi SANO