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訪問現場で起きる「急変」のリアル [前編]どう向き合い対応しているか──ヘルパー・看護師・ケアマネTALK SESSION

2025.12.23 Tue

訪問の現場では、ある日突然「いつもと違う」出来事が起こります。
倒れている、意識がはっきりしない、返事がない――
そうした場面に立ち会うのは、決して特別な人だけではありません。
ヘルパー、看護師、ケアマネジャー。
立場は違っても、誰もが一度は「急変」と向き合ってきました。
前編では、訪問の現場で実際に起きた急変のリアルと、
その時、現場にいた人たちが何を感じ、どう動いたのかを語っていきます。

水野 美和氏 ケアマネジャー

訪問介護員からサービス提供責任者、ケアマネージャーへステップアップ。ヘルパー歴14年、ケアマネジャー歴7年、ロジケア歴10年。

上垣 愛紀 氏  訪問介護員/サービス提供責任者

特養・デイサービスで介護士を経験のちロジケアへ。現在はサービス提供責任者としてロジケアあしやで勤続4年。

上本 啓子氏 看護師

神戸大学医学部付属病院で勤務のち、ロジケアあしやで勤続7年。

急変は、ある日突然やってくる

記者

皆さん、現場でそれぞれ一度は「急変」に携わったことはありますか?

上本/Ns

私たち看護師は、急変が起きた時に「呼ばれる」立場なので、
感覚としては多い印象があります。多い時は、正直、毎日あります。

上垣/サ責

ヘルパーは訪問回数が多い分、看護師さんより先に異変に当たることは多いと思います。
ただ、ない時はほんまにない。でも、来る時はほんまに急です。

水野/CM

ケアマネは訪問頻度が月に1回くらいなので、現場で急変に直接当たることは、正直そこまで多くはないですね。
だからこそ、ヘルパーさんや看護師さんからの「最初の連絡」がすごく大事になります。

急変は「転倒」から始まることも多い

上垣/サ責

転倒してても、意外とね、ケロッとしてる人もいるんですよ。

水野/CM

そやね。
でも結局あとから、「折れてたんよ」ってなることもある。

上垣/サ責

そうそうそう。ひびとか、関節とかね。
その時はわかんないんですよね。「あの時のあれか?」みたいな。

水野/CM

本人も「どうやってこけたか覚えてない」って言うことが多いしね。

上本/Ns

だから、どっち向きに倒れたか 頭を打ってないか
どこが痛いか 動かせるか―
一つずつ確認していくしかない。

上垣/サ責

明らかに動かせない、頭を打ってる、意識がおかしい。
そういう時はもう、迷わず救急車です。

急変時、まず最初に湧いてくる気持ち

記者

初めて急変に遭遇した時、どんな気持ちでしたか?

上垣/サ責

手も震えるし、頭も一瞬真っ白になります。
特に若いヘルパーさんや、経験が少ない人ほど「わぁっ」ってなってしまうと思います。

水野/CM

利用者さんが入浴後に倒れたことがあって
このまま置いとくわけにもいかへんから、まず何か着せるとか、被せるとか。

で、救急車を呼ぶなら血圧も測らなあかんし
「何からしよう」っていうのが、頭にありましたね。

上垣/サ責

そうそう 「何からしよう」ですよね。

水野/CM

家に家族さんがいるか、いないかでも全然違うんです。
家族さんがいたら、「救急車呼んでください」ってお願いして、その間に血圧測ったり。

意識がなくなってきたら、救急隊に電話して、
「今この状態なんですけど、どうしたらいいですか?」って寝かせるべきかどうか、指示を仰ぎます。

上垣/サ責

伝達せなあかんこと、めちゃくちゃ多いですもんね。

上本/Ns

看護師やったら、その場でできることもあるけど、
ヘルパーさんはできることが限られてるじゃないですか。だから、とにかく情報収集。

「どうなったのか」「今どういう状態か」。頭が真っ白になってる場合じゃない、っていう感じになりますよね。

水野/CM

そうそう。「何しなあかんねやろ」って思いながら、とりあえず呼びかけして、血圧測って。

救急隊の人にも、ほんまに何度も何度も聞かれましたね。「血圧は?」「意識は?」って。

上本/Ns

病院やったら、人もいるし、機械もあるし、先生もいる。すぐ助けられる環境なんです。でも在宅は、何もない。できることも限られてる。

明らかに搬送って場面――意識がない、明らかに折れてる、そういう時は迷わず救急車を呼べるんです。

上垣/サ責

でも、「呼ぶほどでもないかもしれない」みたいな時、ありますよね。

上本/Ns

そう。その微妙なラインが、一番困るところですね。
怪しいけど、どう判断するか。そこが一番悩みます。入院にならなかったら帰宅の際のサポートをどうするか。誰が迎え入れて階段を上げて家まで上げるかとか―そういうことも考える。

急変時の基本対応は「自己判断しない」こと

記者

急変時の対応で、共通して大事にしていることは何でしょうか?

上垣/サ責

よく言うのは「判断しないこと」なんですけど、正確には「一人で判断しないこと」ですね。

水野/CM

現場で何も考えずに動かない、という意味ではないです。
状況をきちんと見て、伝えて、相談する。それを一人で抱え込まない、ということです。

上垣/サ責

ヘルパーがやるのは、「どういう状況か」を正確に集めて伝えること。
こけたのか、意識はあるのか、熱はあるのか。そこから先は、看護師さんやケアマネさんと一緒に判断します。

水野/CM

契約の時点で、「こういう場合は救急搬送になることがあります」という話は、事前に家族さんにもしています。

そこで迷って時間を取ってしまうと、もしもの時に取り返しがつかないので、判断の道筋だけは、あらかじめ共有しています。

上本/Ns

ロジケアでは、救急車に同乗しないという線引きもしています。
それは冷たい判断ではなくて、権限や役割の範囲をきちんと分けている、という意味です

水野/CM

行っても決定権はないし、同意書にサインできるわけではない。
医療行為ができるわけでもないので。

上垣/サ責

判断を一人で背負わない。それが、急変時の一番の基本やと思います。
看護師なので異常と正常の判断はつくけど、搬送するかどうか困ったら上司に電話して相談しています。

一人で抱え込まなくていいという安心感

上本/Ns

私も昔、夜中にすごく体格の大きい利用者さんが転倒して、ご家族から電話がかかってきたことがありました。遠隔カメラで倒れているのがわかって、「起こしに行ってください」と連絡をもらったんです。

上垣/サ責

夜のオンコールですね

上本/Ns

そうなんです。でも、その方は体格が大きくて、一人で起こせる人じゃなかった。一人じゃ無理やな、ってすぐ判断しました。その時は上司に電話して、二人で対応しました。

上垣/サ責

昼間でも同じですよね。

上本/Ns

はい。昼でも夜でも、無理な時は必ず人を呼びます。

水野/CM

「一人で何とかしなきゃ」ってことは、まずないですね。

上垣/サ責

訪問は一人で行く仕事ですけど、一人で抱え込む仕事ではない。

上本/Ns

電話したら、誰かが出てくれる。それがわかっているだけで、現場の安心感は全然違います。