知る

社会課題・しくみ・NEWS読み解き

サ高住・ホスピスの急増がもたらす在宅介護の危機―家ではない“家”―前編 

2025.11.10 Mon


“在宅”の名を借りた施設型ビジネスモデル

サービス付き高齢者向け住宅(以下 サ高住)やホスピスという言葉を聞いたことがありますか。
広告やチラシで見かけることが増えましたが、その実態を知る人は多くありません。
「老人ホームのようなもの」と思われがちですが、法律上は『住宅』であって『施設』ではありません。この仕組みが今、福祉業界の根本を揺るがすほどの歪みを生んでいます。

私は、地域に根ざした訪問介護・訪問看護の在宅サービスを提供しています。職員が事務所を出てご利用者の家を一軒ずつ訪ねる──それが在宅の原理原則です。
しかし近年、全国で増えているサ高住やホスピスでは、
同じ“訪問介護”という名のもとで、まったく異なる形のケアが行われています。


「家ではないのに家として扱う」いびつな構造

サ高住では、同じ建物の部屋を101号室、102号室と職員が順番にまわってケアを行います。形式上は在宅サービスですが、実態は介護施設に近い運用になっています。
本来、訪問介護の報酬は個々の家々への「移動」や「個別の生活環境への対応」を前提に設計されています。ところが、同一建物内で「訪問する」と移動距離も手間も少なく、同じ単価で何倍もの件数をこなすことができる。

その結果、請求金額が膨らみやすい構造が生まれ、事業としては極めて“効率の良い”モデルとなりました。同じ建物の入居者を短時間で次々にまわる――いわば「ピストン訪問」。
在宅の名を借りたこのビジネス形態が広がると、地域で本来の訪問を続ける事業所が不利になります。
やがて在宅介護の担い手が減り、「家で暮らし続けたい」という本来の在宅介護の形が失われていく危機が生じます。


制度の出発点は「高齢者が住まいを失わないため」

サ高住の制度は、もともと介護保険とは別のところから始まりました。
2001年、国土交通省が「高齢者の居住の安定確保に関する法律」(高齢者住まい法)を制定。「高齢者が安心して借りられる住宅を増やす」ことを目的とした政策です。高齢者が孤独死のリスクや保証人の問題で入居を断られる現実があり、それを解決するための“住宅支援”として始まったのです。

その後、2011年の改正で「サービス付き高齢者向け住宅」という登録制度ができました。制度の趣旨自体に問題はありません。けれども、この住宅の中で在宅サービスが算定可能になった結果、移動コストが極端に低い“高回転モデル”が成立しやすくなりました。


「ホスピス型住宅」という新たな医療ビジネス

さらに最近では、「ホスピス型住宅」と呼ばれる集合住宅型の施設も急増しています。
本来ホスピスとは、がんや難病など終末期の方が痛みや不安を和らげながら過ごす“緩和ケア”の場を指します。しかし今、病院内のホスピス(緩和ケア病棟)とは別に、一般住宅を改装した“ホスピス型住宅”が各地で次々に誕生しています。

これらは医師が常駐する医療施設ではなく、あくまで住宅扱い。そこに外部の訪問看護ステーションやクリニックが入り、医療保険を使ってサービスを提供しています。
制度上は「在宅医療」の延長ですが、実際は“住宅を利用した医療型ビジネス”に近いものもあります。

中には、訪問回数を増やすために運営会社が主治医に「頻繁な訪問看護の指示書」を出すよう求めるケースが報道でも指摘されています。指示書が増えれば診療報酬も増える――

その構造が現場の倫理をゆがめています。「最期まで安心して暮らせる場」をうたう一方で、医療保険を使った収益モデルが拡大し、サ高住問題と同様の問題を引き起こしているのです。


医療保険を使えば青天井――「別表7」ビジネスの実態

こうした仕組みの背景には、医療保険の制度上の問題もあります。
介護保険には「区分支給限度額」という利用上限がありますが、医療保険ではそれがありません。
なかでも「別表7」と呼ばれる特定疾患(ALS、パーキンソン病など)に該当する場合、訪問回数や費用の制限がなく、結果として“青天井”の請求が可能になります。

この仕組みを悪用し、「別表7」の対象者を紹介すれば一件につき数十万円から百万円近い手数料が支払われる――
そうした『紹介料』が発生する事例が指摘されています。実際、医療・介護の現場で人を“案件”としてやり取りするような動きがあり、私はそれを人身売買にも似た構造だと感じています。病を抱える方が、利益のために取引される、金銭の対象として扱われているのです。


誰もが思いつくビジネス、しかし私はやらない

経営者の目線で見れば、サ高住やホスピスのビジネスは魅力的です。建物を所有し、入居者を集め、訪問介護や看護を内部で完結させる。効率的で、利益率も高い。私のように長年この業界にいる者なら、そのロジックは簡単に発想します。

けれども私は、あえてその道を選びませんでした。ロジケアを立ち上げたのは、人が自分の家で生き続けられる社会をつくりたかったからです。在宅介護とは、文字通りその人の住む家で暮らしを支えるサービスです。

施設型の収益構造を追うより、地域の一軒一軒に寄り添うほうが何倍も難しく、何倍も時間がかかります。それでも、私たちが大切にしているのは「その人の家に行く」という当たり前のことです。「一人でも多く、一日でも長く、安心して自宅で暮らせるように」一人ひとりの在宅生活をまっとうに支えること。それが、ロジケアの矜持であり、私が経営者として譲れない一線です。

※画像はイメージです。Germany: Walking frame in the corridor of a nursing home.


「家」とは何かを、もう一度問い直したい

元々住んでいた家を手放し、介護のためにサ高住やホスピスへ移る――
その瞬間、利用者は本来の「帰る場所」を失います。引っ越した先は、名目上は自宅相当でも、実態は“施設のような場”です。介護の都合で移された“入居先”であり、もう二度と元の自宅に戻れないことがほとんどです。

果たして、それを本当に「家」と呼べるでしょうか。
“在宅”という言葉が持っていた意味を、すり替えてしまってはいないか。
私はこの問題を、介護業界だけでなく、社会全体の問いとして共有したいのです。
(後編へ続く)

株式会社ロジケア
代表取締役 社長 佐野 武
Takeshi SANO